5月28日の川崎市登戸の無差別殺傷事件以降、「引きこもり」がマスコミに連日取り上げられるようになった。
中高年の引きこもりは61万人もいるらしい。50.80問題なんて聞くと、(なるほど。うちの実家もそうだったなぁ。)と他人事とは思えない感情が込み上げてくる。
2014年7月に亡くなった弟は当時47歳、父は79歳だった。弟は高校三年生の夏に統合失調症になった。何度か頑張ってアルバイトで働いたりもしていたが、亡くなる数年前からはガチの引きこもり生活だった。
うちの場合は父親が弟の全てを最後までガッチリとサポートしてくれた。良き理解者であり、相棒だったのだと思う。母親とは激しく言い争うことはあったものの、家庭内暴力はなかった。
ただ黙って家の中で過ごすのも大変だろうし、つまらないし辛いだろうな、と私には思えた。盆暮れに実家に行くのも、弟にとってはいい迷惑なのかも?と考えたりしたこともあった。
しかし、今にして思えば、「父母以外にも自分のことを気に掛けてくれる人間がいる」ということは、ちょっとした心の拠り所だったかも知れないと思う。
朝、なかなか起きてこない弟を起こしに行ったら、布団の中で冷たくなっていた。心原性ショックによる病死だった。
うちの実家は秋田のど田舎で、近所の人達の出入りも盛んだった。父は社交的で友人も多く、弟は引きこもりとはいえ、普通に会話したり近所に買い物にも行っていた。
夫がプレゼントしたパソコンでネットも楽しんでいたし、大好きな矢沢永吉や甲斐バンドのファンクラブにも入っていた。
父の年金からお小遣いももらっていたようである。
ゴミ部屋、魔の巣窟と化した弟の部屋は、足の踏み場もないくらいの惨状だった。丸二日かけて一人で全部片付けた日が懐かしい。
買ったまま未開封のアダルトDVDがたくさんあって、何だか笑えた。弟は弟なりに日々の楽しみを見つけていたのだろうか。
あれから5年。
父と二人、仲が良くて楽しい生活だったそうなので、弟は弟なりに幸せだったのかも、とも思う。でも、もう少し助けてあげられなかったかなぁ、と。
晩年、社会との繋がりが弱くなってからの弟は、落ち武者のようなザンバラ頭で、治療をしていないため、歯は虫歯で抜け落ち、破れたジャージの上下という出で立ちだった。お風呂にはよく入っていたはずだが、清潔感がなかった。
元々は綺麗な顔立ちで私よりずっと美形だったのだ。体調が悪くて痩せた時には、イケメンになったこともあるらしい。何とも勿体無い。
こじれて引きこもってしまうのは、男性の方が圧倒的に多いらしい。理解して助けてくれる人が一人でもいれば、全然違うのかも、と思う。安心できる居場所が見つかれば、と。何か解決の糸口が見つかりますように。
☆追記(6月10日)
6月8日のTBS「新・情報7daysニュースキャスター」という番組でコメンテーターの池谷裕二さんが、ひきこもりについてコメントされていた。
「今の学生たちの就活を見てると、社交性ばかりがやたらと重要視されてるように感じます。人付き合いが苦手な人も多いのに。引きこもってる人の中には、例えば理系の能力が高い人も多いのではないか。これって国としても大きな損失だと思うんですよ。」
大変素敵なコメントで、私は激しく同意!「そうだ、そうだ!」と心の中で叫んだ。
就活でつまづいてひきこもりになる人も多いと聞く。変わっててもいいのになぁ。何もかもソツなくこなせないと、人間としての価値がないのだろうか。