定年退職後、自由気ままなシニアライフを謳歌していた65才の夫が、30数年ぶりに中学時代からの友人と直接会うことになった。
再雇用で働き続けている友人が、会社の研修会でこちらに来ることになり、トントン拍子で予定が決まったのだ。
昨夜、その友人と二人で飲みに行き、ほろ酔い気分で帰宅した夫。
「どうだった?」と聞くと、「いやー、楽しかったー!」と満面の笑み。
「だけど、ショックだった。アイツは定年退職後、再雇用でずっと働いていて。いつまで働くんだ?と聞いたら、これから先も出来るだけ働き続ける、って言うんだよ。聞けば、二つの会社に籍を置いていて週三日働いているらしい。それも役職だよ。この年齢で年収500万円稼いでいて、年金も普通に貰ってる。なんていうか。羨ましいっていうか。複雑な気分になった。週三日くらい働いて社会的な地位もあって、いいよな。」
ため息をつきながら、複雑な表情の夫。
友人は家庭の事情で大学へは進学しなかった。そのコンプレックスから勉強して資格をたくさん取り、趣味の世界でも頑張った。子供二人は近くに住んでいて、それぞれに孫もいる。奥様の実家の土地に家を建て、余った土地で趣味の園芸も楽しんでいる。
人は誰でも承認欲求があるので、自分が人生で成し遂げたことは自慢したくなるのは普通のこと。特に、若い頃からの知り合いならなおのこと、「俺はこんなに頑張って、今こんな地位にいるんだよ!」と言いたくなる気持ちは十分に理解出来る。
しかし、ウチの夫は、他人の自慢話を聞くのも、自分のことを自慢するのも嫌いなタチ。それでも、夫なりに今の自分で自慢出来ることを一生懸命に話したらしい。
「でも、ダメだった。アイツにはまるで響かないみたいで、なんの驚きも反応もなかった。」と、ガッカリしていた。ははは...なかなかの強者のようだ。
私は他人の自慢話を聞くのは割と好きな方で、「すごーい!」「それで、それで?」「良かったねー!」などと、相手を良い気分にさせてドンドン話をさせる方なのだ。
だって、何かしらで頑張って大きな成果を出した話って、気づきやヒントが満載なのだから。そんな話は聞き逃したくない。
それでも、自分と比べてしまって落ち込んだら、やっぱりドツボにハマってしまうかな。
昔仲良かった友人でも、30年も離れていて年賀状のやり取りだけだと、価値観もまるで違ってしまうことは、よくあることなのだろうと思う。
その友人からは、帰宅後すぐに夫のLINEにメッセージが届いていた。「今夜は30数年ぶりに会えて、とっても楽しかったよ。どうもありがとう!」
自分の畑で収穫した野菜もたくさんいただいた。重かっただろうに、わざわざ持参してくれたのだという。翌朝、またメッセージのやり取りがあり、友人はとっても喜んでる様子だった。
気の置けない昔からの友人に、思いっきり自分の自慢話が出来て、きっと心底スッキリしたのだと思う。長年にわたる自分の努力を認めてもらえて、自己承認欲求が満たされたのではないだろうか。
夫が落ち込んだのは、定年退職で「社会的な役割」がなくなった部分があり、自分でもモヤモヤしているからだと思う。
週一回でも週二回でも良いから、何か社会的な活動の機会があれば良いのに、と思う。