rosa8719の今日もご機嫌

59才で2回目の乳がんに。息子二人は独立し夫と二人暮らし。一日一日をご機嫌に。

「夢売るふたり」を観た

西川美和監督の「夢売るふたり」を観た。
東京の片隅で小料理屋を営む板前の貫也(阿部サダヲ)と妻の里子(松たか子)。ところがある日、営業中の火事で店は全焼。再び自分たちの店を持つために、夫婦は共謀して結婚詐欺を始め、複数の女性たちから金をせしめていく。ところが、これが夫婦の価値観の違いなどを浮き彫りにさせ、ふたりの間には徐々に亀裂が生じる・・・というストーリー。

・あらすじ
東京の片隅にある小料理屋。この店を営むのは、愛嬌たっぷりな人柄に加え、確かな腕を持つ料理人の貫也(阿部サダヲ)と、彼を支えながら店を切り盛りする妻の里子(松たか子)。2人の店は小さいながらも、いつも常連客で賑わっていた。ところが5周年を迎えた日、調理場からの失火が原因で店は全焼。夫婦はすべてを失ってしまう。もう一度やり直せばいいと前向きな里子とは対照的に、やる気を無くした貫也は働きもせず酒に溺れる日々。そんなある日、貫也は駅のホームで店の常連客だった玲子(鈴木砂羽)に再会する。酔っ払った勢いに任せて、玲子と一夜を共にした貫也。翌朝、浮気はすぐに里子にバレてしまうが、里子はその出来事をキッカケに、夫を女たちの心の隙間に忍び込ませて金を騙し取る結婚詐欺を思いつく。自分たちの店を持つという夢を目指し、夫婦は共謀して次々と女たちを騙し始める。実家暮らしで結婚願望を持つOLの咲月(田中麗奈)、男運が悪い風俗嬢の紀代(安藤玉恵)、孤独なウエイトリフティング選手のひとみ(江原由夏)、幼い息子を抱えたシングルマザーの滝子(木村多江)……。計画は順調に進み、徐々に金は貯まっていく。しかし、嘘の繰り返しはやがて、女たちとの間に、そして夫婦の間にさえも、さざ波を立て始めていく……。

途中まで見て監督の意図するところはさっぱりわからず、この作品の根底に流れるテーマも何なのか伝わって来なかった。西川美和監督は、何を伝えたかったのかな?と。

登場人物が多くて、そのほとんどが「結婚したいけど出来なくて悩んでいる女性」なのだ。もともとは夫が店の常連客と浮気したことから、結婚詐欺を思いついたわけで、そこには妻なりの復讐と、「結婚したいのに出来ない女性たち」を見下しているような目線があった。

エロいベッドシーンも頻繁に登場する。浮気の現場なので刺激的に描いているのかな?女性監督とは思えないような過激さだ。

やたらととっ散らかったこの話を、どうやってまとめていくのか?想像もつかずに見ていたら、最後の方に出てきた浮気相手の女性(木村多江)は、シングルマザーで男の子を育てていて公務員、という設定。ここで初めて里子は夫の本気を感じ、「負けた」と思ったのだろう。意外な方向へとストーリーが展開していく。

見終わったあとも、何だかよくわからなくて「う〜ん」と唸っていたのだが、一緒に見ていた二男がネットで調べて、「依存と自立がテーマみたいだよ。」と教えてくれた。あっ、そうか!といきなり心の中の点と点がつながった。

貫也が仲良くなった女性のひとりに風俗嬢の紀代がいる。彼女の部屋で金の話をしている時に、いきなりDV夫が現れ暴力を振るわれるシーンがあった。ケンカが収まりケガの手当をしてもらいながら、夫が貫也に「お前はコイツのことを本当に幸せに出来るのか?」と聞く。口ごもる貫也。そこで紀代のセリフ。

「2人ともやめて。私は今が幸せなの。自分の足で立って自分で稼いで、自分の落とし前くらいは自分で付けられる今がいいの。自分の人生だから、自分で決める!」

このセリフを聞いた時、自分の数年前を思い出して心底びっくりした。これがこの作品のテーマだったんだな。私も同じセリフを言ったことがあった。(男女間のことではなくて、あくまでも自分の心情的なことで。)

共依存」についても描いているのだそうだ。
里子は機転の利く良い妻で、夫の小料理屋ではかいがいしく働き、火事で店舗を失ってからはラーメン屋でバイトをして家計を助け、結婚詐欺も夫を支配してやらせていた。普通に考えれば良い奥さんなのだ。

しかし、本当は自分というものがない。貫也の上に乗っかっているだけの人生。貫也なしでは展開することのない人生を生きているのだ。

夫の帰りを待ちくたびれてうたた寝してしまった里子を、帰って来た貫也が抱き上げてベッドに寝かせるシーンがあった。あの時、貫也は自分の足の上に里子の足を乗せて歩いてベッドまで運んでいた。あのシーンが「貫也の足に乗っからないと歩けない里子」を表現しているのだとか。

それから数年後のシーンで、里子の自立した姿がチラリと描かれる。その描き方がなんか良かった。
自分の足で立って、自分で歩く人生。なんかわかるなぁ。

映画の楽しみ方って自分で思っていたよりずっと深いもののようだ。登場人物たちに共感出来なくても、ストーリーに拒否反応を感じても、エロいシーンが多くてちょっと・・・と思っても、浮気するような下半身ユルユルの人ばっかり?と思っても。
描かれるものにはちゃんと意味がある。人間というものの機微とか感情の揺れとか。閉じてしまうと何も見えなくなる。

日常とはかけ離れた世界のようでいて近いようでもあり・・・深いなぁ。