今から10年ほど前の事だ。
私は検診で乳がんが発覚し手術を受けることになり、待合室で診察を待っていた。
ちょうど診察を終えて待合室に戻って来た50代くらいの女性が、顔見知りの患者とプリプリした様子で話をしていた。
「もうねー、主治医とバトルしちゃったわ!私は温存手術でお願いしたい、って何回も言ってるのに、この症例は全摘じゃないとダメだ、って言い張るの。全摘、全摘、って勧めて来るのよー。私は全摘は嫌なの。両者平行線のままで、譲らないからさー。30分くらい掛けても結論出なかった。私は全摘はどうしても嫌なのよ!」
そんな話が聞こえてきて、私は内心ちょっとビックリ。
(主治医の言うことに逆らってもいいんだ。)
正直、そこまで自分の意志を押し通す、ということに驚いた。
全摘か温存か。自分の乳房へのこだわりは人それぞれなんだなぁ、と思うことは多くあった。
「自分の命が何よりも大事だから、全摘してください、って自分からお願いしたわ。」という人もいれば、「全摘なんて絶対いや。温存手術にしてもらった。」という人まで様々だった。
再建手術も大分広まったらしいが、時間や費用、手術や入院など、大変なことも多いだろうな、と思う。
先日の遺伝カウンセリングの件について、いろいろ調べてみた。
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群 HBOCというらしい。この4月から保険適用になったらしく、乳がん界に置いてはホットな話題なのかな。
いただいた資料に「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の特徴は?」とあった。
- 若年で乳がんを発症する(45歳以下)
- トリプルネガティブ乳がん(ホルモン受容体とHER2受容体の発現がないタイプ)を発症する
- 片方の乳房に複数回、乳がんを経験したことがある
- 左右両方の乳房に乳がんを経験したことがある
- 乳がんと卵巣がんにかかったことがある
- 男性の乳がん
- 家族のなかに乳がんまたは卵巣がんと診断された人が複数いる
私はホルモン+ HER2+なんだけどな。乳がんになった時は46歳だったが、これはちょうど好発年齢くらいだったはず。
BRCA1とBRCA2という遺伝子の変異を調べるらしいが、HER2遺伝子に対抗するべくハーセプチンで治療したのに。抗癌剤もホルモン治療もやったのに。
その先にあるのが、「予防的切除」かー。
トリプルポジティブだったので、やれるだけの治療は全部やったのだ。
この遺伝子検査を受けて治療した人の手記も読んだ。
もはや自分だけの問題ではなくて、自分の子供や兄弟姉妹の子供も遺伝子の検査を勧められることになるらしい。
待てよ、うちは息子二人だ。「男性乳がんも1%の確率で出現する。他の癌になりやすい場合もある。」とのことだが、1%のためにそこまでするか。
私には弟が一人いたが、独身ですでに他界しているので問題なし。
父方のいとこ達は今の所「癌」にはなっていない様子。ほとんどが60代。こんなことで騒動を巻き起こしてもなぁ、と思う。
問題が自分自身のことだけならば、そこまで突き詰めることもないように思った。
いろいろ考えて、遺伝カウンセリングはキャンセルした。
「予防的切除」という方向に向かって行くのは、なんだか妙な感じがする。もともと「乳房全摘」というのがあまりにも精神的に辛すぎる、というところから「乳房温存」という方向に変化して行ったはずなのに。
私はもともと「頼まれると断れない」性分で、それがためにPTA本部役員やら何やら引き受けてしまって後悔したり、の繰り返しだった。しかし、「断る力」も必要だよなぁ、と今回は痛感した。
予期せぬことで不安を煽られると弱いのが人間。
特に最近のように、テレビの報道などで日々不安を煽られていれば、尚更である。
診察室で言われた時に、その場で断っていれば良かった。ブレずにいるのは難しい。