rosa8719の今日もご機嫌

59才で2回目の乳がんに。息子二人は独立し夫と二人暮らし。一日一日をご機嫌に。

父へ最後のプレゼント

穏やかな死に医療はいらない
萬田緑平 朝日新書

この本が私から父への最後のプレゼントになってしまった。
10月。抗がん剤治療を2回受け、強い副作用に耐えられず、「治療をやめて緩和ケアに切り替えたい。」と切望して大学病院を退院した父。

その後、ホスピスの病院から入院OKの電話をもらうまでの10日間、私は父と二人きりで実家で過ごすことが出来た。そのタイミングで私から父に「この本、おススメだよ。読んでみて。」とプレゼントしたのだ。

著者・萬田緑平さんは在宅緩和ケア医。群馬県高崎市の「緩和ケア診療所・いっぽ」で働いている。在宅緩和ケア医になる前は大学病院で外科医として働いていた。

外科医として働いていた頃は、手術や抗がん剤治療、胃ろう造設なども普通に行い、治る見込みのない患者にも同じ治療を施してきた。治療の最前線で手をつくしてはいるものの、ほとんどの患者さんは亡くなって行ってしまう。「幸せな死」ってなんなんだろう?それが緩和ケアに興味を持つキッカケになったのだそうだ。

もともと患者さんやご家族と話すことが好きで、「アイツちょっと変わってるな。」と同僚の医師たちから言われていたそうだが、病気を治すことだけではなく、トータルで患者さんの人生を幸せにしてあげたいと思っていた、とのこと。

抗がん剤治療については「効果と副作用の大きさが逆転し、副作用から回復しなくなる“最後の抗がん剤”が必ずある。治療中止の判断が一番大切。」と書かれていた。それでも、現場の医師としては言葉をごまかしながら続けざるを得ない場合もある、と。そんなエピソードがたくさん載っていた。

本を読むのが早い父が、この本だけは何度も繰り返し、繰り返し、丁寧に読んでいた。シーンと静かになったかと思うと、「この本は静かな所で1人でじっくり読みたいな。」と目を赤くして寝室にこもって読んだりしていた。

涙が出ちゃうのだ。私も、電車や新幹線の中で読んでいて涙と鼻水が止まらなくなり、大変恥ずかしかった。胸にジーンと響いてくるので、人前では読めない本なのだ。

「これはいい本だな!この医者は素晴らしい人だ!!」と感激した父は、家に遊びに来る人来る人に「萬田緑平先生という、素晴らしい先生がいる。在宅緩和ケアの専門で・・・。」と、熱く語っていた。

抗がん剤も、大きな病院に勤めていたらすすめるしかないもんな。よく分かったよ。でも、あれは本当に死ぬほど苦しかった。これからはこういう在宅緩和ケアの医師をもっともっと増やしてもらわないとな。」などと、父の中では社会問題にまで発展していた。

しかし、医療過疎化が進んでいるうちの田舎のようなところでは、在宅で緩和ケアなんて、まったく夢の様な話である。

父がこの本にのめり込むあまり、「在宅緩和ケアこそが理想」と思い込んでしまったらどうだろう?そんな懸念もあった。現実的にはホスピスで緩和ケアを受けて亡くなったのだから、良しとするべきか。

そして、一つだけ心残りがある。

「最期のお別れはお早めに」という章があり、「患者さんの意識がまだはっきりしている時期にお別れや感謝の言葉を伝えてください。」と書かれていた。

気恥ずかしさや死を認めるようで抵抗があり、なかなか想いを伝えられない、という家族が多いが、ちゃんとお別れが出来た家族の方が、後々気持ちが穏やかになり悲しみを引きずらないのだそうだ。

父は私に愛情を示してくれたのに、私は照れ隠しのような態度を取ってしまった。あの時、もっとちゃんと感謝の気持ちを伝えてあげれば良かったなぁ。お父さん、大好きだったのに。

この本をプレゼントしたことで、ちゃんと気持ちが伝わっていればいいんだけど。今となっては、その気持を確認することも出来ない。

今年、一番泣いた本。現実はテレビドラマや映画とは違うものだと思うけれど。在宅緩和ケアの命の現場では、本物の感動のドラマが繰り広げられている。