私が小さかった頃、実家の隣は理容院だった。父の従兄妹に当たるT子さんが経営していた。
家の中から理容院につながる部屋があり、T子さんは毎日家に来てお弁当を食べていた。家族ではないけれど関わりが深い、というちょっと変わった関係。
夏休みや冬休みにはずっと理容院にいて、マンガ本や週刊誌を読みあさっていた私。シャボンの泡の匂いも、カミソリを当ててヒゲを剃る音も懐かしい。
そのT子さんが亡くなった。
弟の葬儀、四十九日の時までは元気で、早起きして作ったお料理を持参して台所のお手伝いをしてくれていたのに。四十九日のあとで少しの時間、思い出話をしたのが最後になってしまった。
先月の20日頃、背中の痛みを訴えて緊急入院したそうだ。もともと腎臓が悪かったそうだが、心臓に水がたまっていて、「もう長くないと思うから、今のうちに会いたい人には会わせてあげてください。」と、息子さんは医師に告げられていたそうだ。
6日のお昼頃、旅立ったとのこと。なんてあっけなく人は逝ってしまうのだろう。
T子さんのご主人は十年ほど前に肝臓がんで亡くなった。片道2時間以上かかる大きな病院にうちの父が車で送り迎えをしてあげていた。その時の恩があるからと、T子さんはちょこちょことお料理を作って届けてくれて、遠くのスーパーにも一緒に買物に行っていたそうだ。
ひとり息子さん家族は岩手県にいて、将来的には家を建てて一緒に暮らす予定だったが、「まだいいよ。」とずっと一人暮らしを続けていた。
弟の葬儀、その後のことも、いろいろ相談に乗ってもらっていたらしい。そんな大事な存在が亡くなってしまった。
弟の突然の死から何とか立ち直れたかに見えていた父だが、これは堪えたようである。
弟の葬儀の後、「お父さんに何かあったら、すぐにrosaちゃんに連絡するからね。」と、携帯の番号を交換したばかりだったのに。そのT子さんが亡くなるなんて。
遠く離れて暮らしている高齢の父を支えるって、なかなか大変なことである。どうしたらいいんだろう・・・と戸惑うことばかりである。