「俺は人望がないから。」と常々言っていた夫だが、いざ退職となると、そちらこちらから送別会を開いていただいた。
支店長が出席された送別会では、酔った勢いもあって、かなり本音をぶちまけたらしい。
「後任の派遣社員への引き継ぎも終わって、出社するのもあと半月ほどですが。いやー、もうなんか、居場所がないというか、居心地が悪いというか。身の置き場がなくて困ってしまいますよ。」とかなんとか言ったらしい。すると、「そうですか。じゃあ、今週は明日出てもらって、来週は金曜日に出てもらえれば。あとは休みを取ってもらって良いですよ。七月は全部有休消化って事で。」と、支店長から嘘のようなお言葉が。
ほろ酔い気分で帰宅した夫は、私の方を向いてキチンと座ってペコリと頭を下げた。
「そんなわけだから。明日から本格的に老後生活スタートになった。いきなりだけど、よろしく頼む。」
「ずっと顔を突き合わせてると、ケンカもしちゃうかも知れないけど。まぁ、お互いの1人の時間も大切にしながらやって行こう。そこはわきまえながら、ちゃんとやるから。」
夫からそんな事を言われて、いよいよ定年退職後の生活が始まるんだなぁ...と実感した。
定年退職後、夫が家に居るようになると、「俺の昼飯はまだか。」「今日の晩飯はなんだ?」などと、メシメシ言われてうざい、という話をよく聞いた。うちは私が遅番パートで夫より帰宅が遅かったので、晩御飯を用意してからいつも仕事に出掛けていた。これからは昼ご飯も作らないといけないのか?どうしよう、と思っていた。
すると、「今日の晩飯は俺が作るよ。昼飯は家にあるもので良いから。」と夫。もともとスーパーに買い物に行くのも好きだし、単身赴任で自炊もしていたので、大して苦にならないらしい。ささっと晩御飯を作ってくれるようになった。
今まで午前中にスーパーに買い物に行って、晩御飯のおかずを作って、とバタバタしていたのがなくなり、フッと自由時間が増えた。あら、楽じゃない?
毎回毎回こんな感じで頼るのは、いくらなんでも嫌なので、そんなわけにはいかないが、気持ちだけでも協力してもらえるのはありがたい。
ちょうど良い感覚は、これから手探りで見つけて行こう。まだ始まったばかりなので、無理せず気楽に遠慮せずに。
そうそう悪いことばかりでもなさそうだ。