早朝、父からの電話。「オレもいよいよ容易でなくなって来た。」と寝ぼけた私の頭に衝撃的な一撃。
「時間の感覚がまったくなくなってしまった。頭の中がおかしい。どの位時間が過ぎたのかもわからない。さっき、目が覚めたらお漏らししてた。すごくショックだった。」と父。抗不安薬の副作用で記憶障害になっているのだろうか？苦しそうな辛そうな声だった。
とにかく、父がいる所は病院なので、お漏らしくらいは末期がん患者ならあり得ること。看護師さんに言えばちゃんと対処してくれるから大丈夫、となだめた。しっかりしていて気丈だった父には、自分が弱っていくのが受け入れ難いようだ。
「もう誰も来てくれなくなった。昨日は二組来客があったけど、十分もしないで帰った。」と寂しそうなので、「私、明日行くから。仕事もまた休みを取るよ。」と言ったら「そうしてくれると助かる。」とホッとした様子。
「うちの主人とも話してたんだけど、そこを退院してこっちに来て暮らさない？私も行ったり来たりが大変だし何より心配だよ。主人も、単身赴任でほとんど居ないんだから遠慮せずに来てもらえばいい、と言ってくれてるし。ねっ？冬の間だけでもいいから。私がそばにいる方が安心でしょ？そうしてくれると、私も助かるよ。」
この時とばかりに、同居を持ち掛けてみた。
「そうだな。今までは『オレは1人で大丈夫！』とカラ元気で言っていたが、こうなってくるとやはり・・・。そうしてもらった方がいいかな・・・。」と意外にも父が受け入れてくれた！！
職場に出向いて事情を話し、「こちらに連れて来て、また新たに病院を探さないといけないから、長期間休ませてほしい。」とお願いしてみたが却下された。何とか10日間くらいの休みはもらったので、この間に退院と引っ越しと病院探しだ。落ち着く暇もないし、退院したらしたで父を1人では置いておけなくなる。
いとこたちに電話で連絡した。いとこのAちゃんは「昨日、病院に行ったけどすごく元気だったよ。えーっ、そんな電話したの？退院してrosaちゃんの家に行くのはいいと思うけどね。」という反応。いつもいつも父のことに関しては、このギャップに悩まされる。しかし、私は父の娘なので、父の気持ちを一番に考えてあげたい。
他のいとこたちは「それが一番いいと思うよ。」と賛成してくれた。いとこの奥様Tさんは、胃がんのおじを呼び寄せて最後まで看てあげた人なので、いろいろ相談に乗ってくれた。
「住民票の移動も何もしなくていいの。身一つで気楽に来てもらうといいのよ。必要な物はこっちで買えばいい。もう親戚に頼ってどうのという所は過ぎたから、最後はやっぱり家族なのよ。それでも退屈そうだったし、いろいろケンカもしたけどね。でも、最後まで看てあげたから悔いはないの。」
「胃がんの手術は大丈夫だったんだけど、心臓の方で急に亡くなったの。もうびっくりして大変だったけど、何とかなるものよ。大丈夫、大丈夫。亡くなった後、遺体を長距離運んでくれる葬儀社があって、そのためだけにお願いして、実家の鍵は親戚に開けてもらって準備して。葬儀は地元でやることが出来たの。」
なるほど。さすがに姑、舅と看取って、実母は認知症でグループホームにいるTさん。親身になってアドバイスしてくれた。
「介護保険だって認定が降りるまでに時間が掛かるけど、実費出せばすぐに利用できるサービスもいろいろあるのよ。今は相談出来る所もいろいろあるし。私は社会福祉協議会に行って相談したよ。」なるほど。
入院してまだ2週間ほどなのに退院をチラつかされ、いとこの目からは元気そうに見える父。「やっぱり、緩和ケアとかは早過ぎたんだよ。」と言われたが、「緩和ケアに早過ぎるということはない」というのが今の医療界の常識のはず。父を心の底から安心して委ねられる病院・医師を探さなくっちゃ。
最後の親孝行だ。
